5月13日は「愛犬の日」だったそうです。これは昭和31年5月13日に出版社によって開催された、犬への知識・関心を深めるための大規模イベントから来ているとされます。
それに関連して気になるニュースが・・・
日本でペットとして飼われているコーギーやトイプードルは、しっぽを切られた(断尾された)ものがスタンダードだというのです。
これは一体どういうことなのか・・・
そもそもドッキングと言われる断尾・断耳とは何なのか?
どういった目的でそれは行われているのか?
そして広まりつつある「アニマルウェルフェア」とはどういった思想なのか?
これらの疑問にお答えしていこうと思います。
もくじ
ドッキング(断尾・断耳)の解説と方法
断尾も断耳も、読んで字の如く「しっぽを切り落とすこと」「耳を切り落とす(成型する)こと」です。
聞くだけで痛々しいですね。その方法ですが―――
断尾の方法
まず断尾には2種類があります。「結紮法(けっさつほう)」と「切断法」です。
結紮法・・・しっぽをゴムバンドできつく締め付けて血流を遮断し、結び目以降の組織を壊死させて 自然に脱落させる方法。およそ3日で脱落する。
切断法・・・外科的にメスやはさみなどを使って任意の場所で切り落とす方法。
どちらも生後2~5日の子犬の状態で行われることが多く、その場合は麻酔なしです。
というのも生後間もない子犬は知覚が発達しておらず、痛みに対して鈍感であるという考えを前提としているからです。
断耳の方法
断耳は人間で言う美容整形のようなものなので、完全に切り落とすというよりも小さくカットしたり形を整えたりすることを言います。
生後7~12週のころに行われ、こちらは全身麻酔をかけた上での手術となります。まず耳の3分の2以上を切り取り、切断した部分を縫い込んだり医療用接着剤で糊付けし形を整えます。
その後は耳がピンと立つまで金属製の副木などを当てて包帯で固定され、包帯が取れるまでには3週間、長いときで8週間ほど要することもあります。
読んでいるだけでかわいそうになってきます。では何故こんなことが行われているのでしょうか。
ドッキングの歴史
断尾・断耳が行われた理由
犬はもともと家畜であり、人間がその目的・用途に応じて品種改良を繰り返してきた動物です。
その目的・用途はおもに「狩猟」です。「猟犬」という言葉がある通り、犬は人間にとって大事な狩りのパートナーだったのです。
獲物となる動物を追跡、追い込みをかけるには藪や茂み、森林の中を猛スピードで走る必要があり、それに適した身体的特徴をもった犬種が作られました。
また、闘犬や牧場で羊などをコントロールする牧用犬など、どんどん人間の生活に身近な存在になっていきました。
そうなると、長い尾は牛や羊などに踏まれる危険性が高まったり、狩猟の際には耳が木の枝などに引っかかって怪我をしたり、闘犬では相手に咬みつかれやすい場所になったり、リスクが増すだけで必要のないものになっていったのです。
時代の変化でドッキングの意味も変わった
産業革命以後、狩猟や牧羊が主要産業ではなくなると、犬は一気にペットとしての存在へと移り変わっていきます。
その中で断尾や断耳も、犬種の特徴を表現する目的やスタイル・美容といった目的に変化をしていきました。
現在ではもはやただの「ファッション」と化しているといっても過言ではありません。
アニマルウェルフェアとは
「動物福祉」という考え方
近年、西洋諸国ではアニマルウェルフェアという考えが浸透してきています。「アニマル(動物)」+「ウェルフェア(福祉)」という意味です。
これはペットとしての犬・猫に限らず、動物園にいる動物や食用の牛・豚・鶏、その他家畜に至るまですべてを対象とした考え方です。
平たく言うと「動物が精神的・肉体的に充分健康で幸福であり、環境とも調和していること。そして人間がその命を奪う必要があるときは、苦痛がないように行う」というものです。
俗に言う「動物愛護」とは違います。動物愛護の精神は、いついかなる理由があってもその命を奪ってはならないというものであり、アニマルウェルフェアとは前提が異なります。
アニマルウェルフェア・5つの自由
国際的動物福祉の基本5か条です。
1960年代のイギリスで、家畜の劣悪な飼育管理を正し家畜の福祉を確保するために「5つの自由」が定められました。それは以下の通りです。
- 飢えと渇きからの自由
- 不快からの自由
- 痛み・傷害・病気からの自由
- 恐怖や抑圧からの自由
- 正常な行動を表現する自由
アニマルウェルフェアもこの5つを基準に判断すると分かりやすいのではないかと思います。
日本における取り組み
世界の動物衛生の向上を目的とする政府間機関である「国際獣疫事務局(OIE)」に日本も加盟しており、農水省はアニマルウェルフェアの理念を元にした家畜の飼養管理の普及に努めています。
農水省からは「アニマルウェルフェアに配慮した家畜の飼養管理の基本的な考え方について」という書面が令和2年3月16日に通知されています。↓
https://www.maff.go.jp/j/chikusan/sinko/attach/pdf/animal_welfare-42.pdf
この中でも「5つの自由」の確保が謳われています。
ドッキングのメリット
メリットはほとんどない
アニマルウェルフェアの観点を踏まえた上で、断尾や断耳といったドッキングのメリットを考えてみると、これはもうはっきり言ってほとんどありません。
先述の通り、ドッキングの目的がほぼファッション感覚であり、飼い主がその姿を可愛いと思うか思わないかだけの話になってきます。
強いて言えばしっぽは位置的に排泄物が付きやすく衛生的によくないということは言えるかもしれませんが、ちょっとぐらいウンチが付くのと、しっぽを切断されるのと、犬にとってはどちらが苦痛でしょうか。
デメリットやリスクはいっぱい
犬のしっぽは、走る際に体全体のバランスをとるのに役立っています。またこれは誰でも知っている通り、しっぽを振るのは犬の感情表現です。尾が短いと、犬同士の意志疎通に支障が出ることも考えられます。
また単純に、尾や耳を切断されて犬たちが痛みを感じていないわけがありません。生後間もない子犬ならば大丈夫・・・って、誰が言い出したか分かりませんが子犬たちにちゃんと話を聞いたんですか?
それは痛みを感じていないわけではなく痛いことを表現する術を持たないだけなのではないですか?
ドッキングが違法行為というわけではありませんが、犬たちが多大なリスクを背負ってまで行われることではないように思います。
まとめ
- 断尾・断耳についてとその方法
- ドッキングの歴史
- アニマルウェルフェアとは
について解説してきました。
人間は身勝手な生き物なので、犬・猫に限らず様々な動物たちを自分たちの利用しやすいように品種改良したり、はたまた乱獲により絶滅させたりしてきました。
そんな人間が今、新型コロナウイルスの脅威にさらされ生物としての「選別」をさているのだとしたら・・・それは何かの因果なのかもしれません。
動物だけでなく、自然や目に見えないウイルスとも、人間はもっと共存の方法を探すべきなのではないでしょうか。(N)