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2022年発行

W杯出場枠拡大でアジア8.5枠に…「多すぎ」と批判の嵐もあえてメリットを考える

2026年にアメリカ・カナダ・メキシコの3か国で行われる北中米ワールドカップにおいて、アジアの出場枠が8.5に拡大されることが正式決定。

しかしこの改革に対して世間からは批判が続出!

  • 金儲けに走りやがって!
  • レベルの低下は確実だな…
  • 予選の緊張感もクソもないな

など、とにかく否定的な意見が相次いでいるのです。もう決まってしまったものはどうしようもないですが…。

ということで批判的な意見ばかりが目立つW杯の出場枠拡大ですが、ここは一つ冷静に、その「メリット」について無理やり掘り下げてみたいと思います。

きっと世界全体のサッカーレベルを底上げするような効果がある…かも?

W杯アジア出場枠拡大に対する世間の声

手厳しい意見が多数です。

W杯は狭き門だからこそ出場する意義がある、というのは理解できます。

最近ではW杯よりヨーロッパチャンピオンズリーグの方がレベルが高いなどと言われることもありますが、やはり世界中のサッカーファンにとってW杯は唯一無二の存在感があるのでしょう。

今回の出場枠拡大の詳細

では改めて、2026年W杯の出場枠拡大の詳細を見てみましょう。

数字は2022年大会から2026年大会がどれだけ増加したかを示しています。

  • アジア    「4.5→8」
  • ヨーロッパ  「13→16」
  • アフリカ   「5→9」
  • 北中米カリブ海「3.5→6」
  • 南米     「4.5→6」
  • オセアニア  「0.5→1」
  • プレーオフ  「2」

W杯の出場国は、現行の32カ国から48ヵ国へと拡大します。それに伴い増えているのはアジアだけに限った話ではなく、各大陸すべて枠が拡大しています。

また、「アジア枠8.5」というのはプレーオフの2枠分を換算した数字です。0.5枠の国は大陸間プレーオフの勝者ということになります。

アジアは最大9ヶ国で倍増!

今回の拡大で、アジアの国は最大9ヶ国がW杯出場を手にすることになり、これまでの4.5枠から考えると数字上は倍増となります。

批判の声が最も大きいのは、アジアに9ヶ国もW杯の舞台を踏むにふさわしい国が無い!という点です。

W杯を見ている方には当たり前の光景ですが、アジアの出場国は毎回W杯の予選リーグで無惨に散っていくケースがほとんどです。

現に「アジアの盟主!」「アジア最強!」の名を欲しいまま(?)にしている我らが日本代表すら、予選リーグを突破するのがやっと。

そんな地域に9個も出場枠は必要ない!という意見が出るのは至極当然です。

日本代表もぬるま湯に…?

もう一つの批判の声は日本代表に関してです。

アジアの出場枠が8.5になれば、日本はほぼ間違いなく毎回W杯に出場できるでしょう。

アジアには、W杯でロクに成績も残せない日本にすら全く歯が立たない国がたくさんあります。

そんな緊張感のない相手とばかり予選で戦って当然のように本戦出場権を獲得しても、日本代表の成長には繋がらない!ということですね。

出場枠拡大によるメリットは?

それではここから、W杯の出場枠拡大のメリットについて、あえて考えていこうと思います。

そもそもアジアに8.5枠は多いのか?

まずは批判の声ナンバー1、そもそもアジアに8.5枠が多すぎるのかという点についてです。

以下はFIFAの子組織であるそれぞれの地域のサッカー連盟と、そこに加盟している国の数です。

  • アジアサッカー連盟     47
  • アフリカサッカー連盟    57
  • 北中米カリブ海サッカー連盟 41
  • 南米サッカー連盟      10
  • オセアニアサッカー連盟   11
  • 欧州サッカー連盟      55

そして、出場枠拡大後のそれぞれの数字を、この加盟国で割って各地域の『出場枠率』を算出してみます。

アジアとオセアニアは近いこともあるので一緒にします。なお、プレーオフの2枠分は計算に入れていません。

  • アジア・オセアニア 15.5%(8/58)
  • アフリカ      15.8%(9/57)
  • 北中米カリブ    14.6%(6/41)
  • 南米        60.0%(6/10)
  • ヨーロッパ     29.0%(16/55)

アジアは別に恵まれていない!

『出場枠率』で見ると、アジアは特別恵まれているわけではないことが分かります。

むしろ恵まれているのはヨーロッパと南米。

南米なんて半分以上が出場できることになります。

ヨーロッパも、UEFA加盟国の実に3割弱がW杯に出場できることになるのです。

サッカー連盟の加盟国の数からいくと、アジアに8.5枠は多くないことが分かります。

レベル差はあるが、出場できないのは自己責任

アジアに8.5枠は多くないと書きましたが、当然南米や欧州には強豪国がズラリと並び、その地域から出場する国が多い方がレベルも上がるでしょう。

しかしその2地域はこれ以上ないぐらい既に枠を設けられていると言えます。

カタール大会にはイタリアやコロンビア、チリといった強豪国も出場できないのに、アジアの枠を増やすのは何事か!という声も耳にします。

しかし『出場枠率』から行けば、それらの国が本線に出場できないのは明らかな“自己責任”であり、文句は予選を突破してから言ってくれ、ってのが正直なところです。

出場枠拡大のメリット

ここからは出場枠拡大によるメリットを分析していきます。

メリット①アジア全体のレベル底上げ

W杯の出場枠が拡大して誰が得をするか…「それはFIFAだろ」という意見はひとまず置いておいて、得をするのはこれまでW杯に出場できなかった国々です。

これまでW杯出場の当落線上にいた国や、まだ出場したことがない国にとって、出場枠の拡大はこれ以上ないモチベーションとなります。

予選がぬるま湯になると言われてますが、あまりそうは思いません。

むしろ「何が何でもW杯に出場してやる!」という国が増えて、全力でぶつかってくる国が増えるのではないかと思います。

日本はもう一歩前へ進む必要もある

ところで日本代表がW杯出場を既定路線としてしまうのは問題なのでしょうか。

というか、現時点で既にW杯出場は「最低条件」ではないですか?

カタール大会で日本は7大会連続の出場です。

もはや日本はW杯に出場することが目標ではなく、本戦でいかに結果を残すかが課題になっています。

それは出場枠が4.5だろうが8.5だろうが変わりません。

「最終予選で苦戦したー」「森保の采配がー」とか言っていては、もうダメなところまで来ているはずです。

選手はもちろん、我々ファンも、日本代表を見る「目」を変えていく必要があるでしょう。

メリット②予選での消耗を減らせる

W杯の出場が毎回ほぼ確実になるのなら、予選の間の時間を本戦でいかに結果を出すか…を考える時間に当てられます。

そのための選手起用や戦術テスト、連携確認など、これまでの予選よりも時間をかけてゆっくり行えるようになるのではないでしょうか。

第2の小野伸二を出さないためにも…

日本サッカー界の損失と言っても過言ではない、小野伸二選手のシドニー五輪アジア1次予選での大怪我。

W杯の予選ではないですが、格下のフィリピン相手に出場した小野伸二選手は、相手の悪意に満ちたタックルをモロに喰らい、文字通り膝を「破壊」され(左膝靭帯断裂)、その影響は彼のサッカー人生に大きな影を落とすことになったのです。

小野伸二選手が怪我をしていなかったら…の『if』は、サッカーファンなら誰しも思い描く夢でもあります。

格下相手でも、本大会出場に向けて主力選手を使い続けなければいけないリスク。

怪我はなくとも予選で中心選手がボロボロになって、肝心の本戦で結果が出せない…というシーンは過去にもあったのではないでしょうか。

出場枠拡大で日本が本選出場を確実視できるようになれば、無理をして主力選手を使い続ける必要もなくなると思います。

アジア枠8.5は別に多くない!枠拡大のメリットもアリ?

W杯のアジア出場枠が8.5に拡大されたことについてあれこれ考察してきました。

出場枠の数を大陸ごとのサッカー連盟加盟国数で割った『出場枠率』で見ると、アジア8.5は全く多くないことが分かりました。

さらに出場枠が拡大したことで、アジアでこれまで当落線上だった国々のモチベーションに火がつき、それは結果的にアジア全体のサッカーレベル向上に繋がること、そして日本は予選突破が容易になったことで、本戦で結果を残すためのテストや主力選手の温存など、生まれるメリットもあるということがお分かりいただけたと思います。

W杯という舞台が尊いものであることは、今もこれからも変わりません。

我々ファンも『W杯が持つ意味』を改めて考えるときに来ているのではないでしょうか。