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2023年発行

投げ抹消、何が問題?選手から不公平だの声!ヤクルト・奥川の成功事例もあるが…

2月5日、日本プロ野球選手会のTwitterが更新され、↓のような投稿がされました。

ヤクルトスワローズの2軍ミーティング終了後、選手側から「投げ抹消」に対する改善要求があったとなっています。

これに関しネット上では

  • 何が不公平なの?
  • そもそも「投げ抹消」って何だ
  • 成功事例はあるの?

などの声が挙がっています。

この記事では、近年用いられるケースが増えた「投げ抹消」についてその仕組みや問題点を掘り下げながら、成功事例もご紹介していこうと思います。

投げ抹消に対する世間の声

ネット上でもやはり問題視している方が多いようです。

「投げ抹消」とは

ではそもそも「投げ抹消」とは何なのかについての解説からスタートです。

「投げ抹消」とは登板間隔の管理

「投げ抹消」とは、球団側が主に自チームの先発投手に対して行う登板間隔の管理のことです。

冒頭の画像にも、

先発投手が登板後に登録抹消される

とあり、先発した投手の一軍選手登録を試合後すぐに抹消する行為を「投げ抹消」と呼びます。

登録抹消されるとどうなる

NPBの規定では、

「一軍登録を抹消した日から起算して10日間は一軍に再登録はできない

と定められています。(一部例外を除く)

これは投手も野手も関係ありません。どのポジションの選手でも、一軍選手登録を抹消されると10日間は再登録ができません。

そもそも登録抹消というシステムは、怪我をした選手の治療期間や、コンディションを落とした選手の調整期間のために設けられた制度。つまり登録抹消をされる選手は、そのまま一軍に残っても戦力として計算できない選手であるという前提の元、成り立っているルールです。

「2軍落ち」と同義

ちなみに余談ですが、登録抹消はいわゆる「2軍落ち」と意味は一緒です。

意味は同じなはずなんですが、「登録抹消」の方は事情があって仕方なく…というイメージを持たれ、「2軍落ち」の方はいかにもその選手に落ち度があって落とされた…というイメージが湧きます。

これはマスコミがその背景によって言葉を使い分けている影響が大きいでしょう。

「投げ抹消」を行う意味

では、この登録抹消制度を活用した「投げ抹消」を行う意味は何なのでしょうか。

上記の通り、一度登録抹消した選手(投手)は10日間、再登録ができません。しかしこれは逆に言うと、10日後には再び一軍の試合で投げられるということです。

現在のプロ野球では、先発投手は中6日、7日といった登板期間が主流。つまり先発投手は登録抹消しようがしまいが一軍で投げる頻度には大差ない、と言えます。それならばいっそ登録抹消して、10日間しっかりと休息と調整をしてもらい、次の先発機会を万全の状態で迎えた方がいい、という判断で「投げ抹消」が行われるのです。

色んな選手を試す機会としても機能

「投げ抹消」の仕組みは、色んな選手を一軍で試す機会としても機能します。

当然、登録抹消をすれば一軍の登録枠が一つ空くわけですから、そのタイミングで2軍で活躍している若手を一軍登録して、通用するかどうかを試す、といったことが可能です。

分業制が進むプロ野球の世界で、多くの選手に出場機会を作り経験を積ませることは非常に重要なポイントです。球団側はこうした制度を上手く活用し、チームの強化を図っているのです。

「投げ抹消」の問題点

ここまでは登録抹消の制度を利用した「投げ抹消」の良い点を中心に解説してきました。

しかし、選手側からはこの「投げ抹消」が不公平なシステムだ!として改善要求が出ています。一体「投げ抹消」の問題点はどこにあるのでしょうか。

問題点①選手の評価(年俸)に影響

問題点の一つ目は、選手の評価(年俸)への影響が大きいという点です。

先ほど、登録抹消というシステムは対象となる選手が「そのまま一軍に残っても戦力として計算できないという前提の元、成り立っている」と書きました。

しかし「投げ抹消」は、先発した投手のコンディションや状態に関係なく抹消します。もちろん一度登録を抹消することは、これも前述の通り投手の休息・調整のためには好影響でしょうが、その投手自身の勝利数や投球回数は確実に減少します。

投手にとって勝利数や投球回数などの数字は、自身の評価に直結します。選手によっては、あまりに「投げ抹消」を繰り返されることで“活躍してアピールする場を奪われている”と感じてしまっても仕方ありません。

問題点②FA権の取得が全然できなくなる

「投げ抹消」システムの最も闇が深い点は、このFA権に関する問題です。

というのも、FA権には「一軍登録日数」というものが大きく影響してくるためです。

FA権取得の条件

現状の規定によると、FA権を取得するための条件は、

◆国内FA・1回目
シーズン中に一軍登録された日数145日以上×8シーズン(大学社会人出身者は7シーズン)

◆国内FA・2回目以降
1回目の国内FA権行使後、145日以上の一軍登録×4シーズン

◆海外FA
シーズン中に1軍登録された日数145日以上×9シーズン

となっており、FA権を取得するためには単に長くNPBに在籍していればいいというわけではありません。一軍に長く登録され、チームの主力として活躍し続けることが条件となっているのです。

「投げ抹消」を繰り返されると…

この点から考えると、「投げ抹消」を何度も繰り返される投手は、いつまで経ってもFA権を取得できないことになります。

例えばあるシーズンで15回先発し、そのすべてで勝利投手となっても、毎回「投げ抹消」をされていたとしたら、一軍登録日数は20日程度に留まり、FA権の取得条件には遠く及ばないことになってしまいます。

球団側の黒い謀略?

穿った見方をするのなら、球団側はこの「投げ抹消」を利用して、投手の流出を食い止めることが可能です。

「野球は8割ピッチャーで決まる」と言われるぐらい、投手の存在は大きなものがあります。特にエース級の先発投手なんてそんな簡単に育つものではなく、球団としてはおいそれと移籍されては困るわけです。

「投げ抹消」を繰り返して選手のFA権取得を阻害し、いつまでも手元に置いておく…、さらには最低限の勝利数や投球回数になるよう調整し、年俸の高騰も抑えながら…

「登録抹消した選手は10日間、一軍登録できない」というルールを逆手に取った悪どいやり方です。こんな黒い謀略を企てている球団がないとも限りません。

https://twitter.com/rendesuwa/status/1623159728405905408

ヤクルト・奥川投手の成功事例

そんな黒い部分も見え隠れする「投げ抹消」ですが、これを上手く活用して素晴らしい成績を残したのが、2021年のヤクルトスワローズ・奥川恭伸投手です。

中10日ローテで9勝

2021年の奥川投手は入団2年目ながら、「投げ抹消」を繰り返し中10日ゆったりローテでチーム最多の9勝を上げました。

↑先発した翌日に登録抹消、そして10日後にまた一軍選手登録

まだ体のできていない若手投手を、休ませながら上手く起用して好成績を演出したチームの方針も当初は持て囃されていました。

投げ抹消は奥川投手の流出防止のため?

しかしチームがあからさまな「投げ抹消」を繰り返したことで、これはヤクルトが奥川投手の流出を防ぐのが目的ではないかとの見方がされるようになりました。

実際、奥川投手の一軍登録日数を他チームで登板数が近い若手先発ピッチャーと比較すると…

・ヤクルト・奥川
プロ3年 20登板20先発 登録日数69日

・中日・高橋宏
プロ2年 19登板 19先発 登録日数109日

となり、いかに奥川投手の一軍登録日数が少ないかが分かります。

このペースでは、奥川投手が現役中にFA権を取得するのは不可能。もちろんこのまま起用法が変わらないとも思えませんが、将来チームのエースとなるであろう投手のFA権取得をギリギリまで遅らせてやろう、という魂胆があると思われても致し方ありません。

そこに選手の意思がないとすると大問題

奥川投手の起用法にヤクルトの謀略があったか否かは分かりません。残念ながら昨年(2022年)の奥川投手は右肘の故障でわずか1登板に留まっているため、その後の検証もできずじまい。

しかしいずれにせよ、もし「投げ抹消」が選手自身の意思や了承の有無に関係なく行われているのだとしたら本当に大問題です。

年俸の査定となる成績や、他チームもしくはメジャーへの移籍は、プロ野球選手にとって死活問題。それを球団側が意図的に操作できてしまう仕組みはおかしいと言えます。

しかも「投げ抹消」が適用されるのは当然ながら投手のみ。同じプロ野球選手でありながら、年俸査定やFA権という野球人生を左右しかねない重要部分に、投手と野手で大きな違いが生まれるのは不公平です。

そもそもこの「投げ抹消」のシステムに対して選手側が何も不満に思ってないのなら、改善要求など出ることもないでしょう。「投げ抹消」にまだまだ様々な課題が残っていることだけは間違いないと言えます。

↑”令和の怪物”こと佐々木朗希も投げ抹消で一軍選手登録日数を操作されているとの話も…

投げ抹消の問題点は球団側の黒い謀略にアリ!早急な改善を!

選手側から改善要求があった「投げ抹消」について掘り下げてきました。

投げ抹消は投手の疲労や消耗度を軽減する効果がある反面、球団側がその選手の一軍登録日数を操作し、年俸査定やFA権取得のタイミングに大きな影響を及ぼすことができてしまうという危険性も孕んでいることがお分かりいただけたと思います。

プロ野球発展のために、こうした良からぬ憶測が生まれてしまうようなルールは早急に改善をお願いしたいところであります。