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ここにはそれがある。
あした使えるはなしのたね
2020年発行

「下手ギタリスト」のはなし。2020/10/29

「上手」と「下手」―――これをパッと見て「かみて」「しもて」と読んだ方は舞台の演出家か何かでしょうか

多分、大概の人は「じょうず」と「へた」と読みます。全然いいですよね、何も間違ってない。

むしろいきなり「かみて」「しもて」と読むやつがいたら、おまえ何イキっとんねん、と言いたくなります。「かみて」「しもて」というのは演劇や音楽ライブなど、要は舞台上での左右を表わす言葉です。

舞台上にいる演者と、客席にいる観客は当然ながら相対しているので左右が逆になる。そのためどちらから見ても左右が分かるような表現が必要になり「かみ・しも」という分け方になったのです。 ただ何で他にも読み方のある「上手」「下手」という漢字を当てて表わすことにしたのか・・・紛らわしい表記であることこの上ない。

いや、紛らわしいどころかうっかりこれを使うと大変なことになります。我らがX JAPNはメンバー5人でギタリストが2人いて、ライブの際、その2人は両サイドに立ちます。普通に見てる分には右のギターが誰々で左が誰々だよ、でいいのですが、さっきの「かみ・しも」を使うとこんな事態に・・・ギター(上手)・HIDE ギター(下手)・PATA―――これはフザケんな案件ですよ。普通に読んだらPATAがヘタみたいです。ヘタどころかむしろテクだけならHIDEよりPATAです。と言うとHIDEのコアなファンからキレられるし・・・え?X JAPANじゃ分からない?

じゃあみんな大好き三代目J Soul Brothersで言えばいいですか!それなら分かりますか!「上手」なのが山下健二郎で「下手」なのがガンちゃんですよ!ほら、ガンちゃんファンの怒りの声が聞こえるでしょう。

この「かみ・しも」は日本語の表記から考えてもおかしいんですよね。だって「上下」と書いた場合「かみ(上)」は左側にあるのに観客席から見たら舞台上の右手が上手、同じように「しも(下)」は右側に書かれているのに観客側からは左手が下手。でも演者側から見たら別におかしくはない・・・けど舞台上の人間は観客を楽しませるのが仕事なのだから観客側の視点で見ろや!となりますし、まあ兎にも角にもややこしいだけで誰も得しないんです。

何で「上と下」で分けたのか。これはもう相当に歴史を遡らなければいけません。大昔、それこそ電気がなかった時代、舞台というものは必ず南向きに造られました。これは納得です。少しでも明るいほうがいいですから。んで、「天子は南面す」という言葉があり、「天子」とは天皇のことで「南」を向いて君臨していると言われています。そして古来から東側に偉い人を配置するという決まりごとがあり、その結果、南を向いている人(天皇)から見て東にいる人、つまり左手側が「上」、右手側が「下」となったとされているのです。でもこれ飛鳥時代から使っているんですって。

分かりにくいのに長いこと使いすぎでしょ。このルールを適用するのはチャゲ&飛鳥のライブのときだけでいいじゃん、もう。 「上下」は本当に使い方を吟味してほしいと思います。だってどう考えても上>下です。上の方が良いと思われるに決まっている。「上京」という言葉も腹立ちますね。東京へ行くことがなぜ「上」扱いなのか。高速道路も東京へ向かう方が上り線です。

もっとバカなのは青森とかから東京へ行くのも「上京」・・・地図で見たら下がってるやんけ!空を飛べない人間が、平面状の場所に対して「上下」の概念を設けるのはいささか出過ぎた真似のようです。(N)