12月9日に開催されることが決定した「現役ドラフト」。
長いプロ野球の歴史の中でも初めての試みということで、否が応にも注目度は高まっています。
各球団で必ず選手の入れ替えが発生し、ストーブリーグを盛り上げる意味でも効果が期待されている現役ドラフトですが、ネット上では、
- メジャーにも似たような仕組みあるよね
- メジャーとは何が違うの?
- ちゃんとメジャーみたいに機能するのか…
など、メジャーリーグとの比較を気にする声が多く挙がっています。
この記事では、初の試みである現役ドラフトが本場メジャーのそれとどう違うのか、仕組みについて比較しつつ、予想されるリスクについても触れていこうと思います。
もくじ
現役ドラフトとメジャーを比較する声
やはり「メジャーと比較してどうなのか」という声は多いようです。
MLBとは何かと環境が違う日本のプロ野球界で果たして意味があるのか、存在意義を疑う声も聞こえてきます。
メジャーの「ルール5ドラフト」
では、日本とメジャーの現役ドラフトを比較して違う点を挙げていきましょう。
まずもってメジャーリーグに存在する現役ドラフトは「ルール5ドラフト」という名称です。この名称は、ルール5ドラフトがMLB規約の第5条に規定されていることに由来します。
なおメジャーリーグのルール5ドラフトにはかなり細かい規定がありすべてを網羅することはできないため、ここでは大まかなルールを列挙します。
ルール5ドラフトの大まかなルール
ルール5ドラフトの大まかなルールは以下の通りです。
- 対象となるのはメジャー40人枠に入っていないマイナーリーグの選手
- 入団から4〜5年が経過したプレーヤー(入団時の年齢によって変動)
- 指名はウェーバー制で成績下位チームから指名
- 指名した選手は、指名した球団が旧所属球団に譲渡金を支払って獲得する
- 指名した側の球団は、その選手をメジャーの試合に出場できる25人枠に「必ず」入れないといけない
- もし指名した選手が期待外れだった場合、元の所属球団に選手を返すことができる(その場合、支払った譲渡金の半額が返って来る)
MLBにおける現役ドラフトは、選手がマイナーリーグで飼い殺しにされることを防ぐための制度です。
そのため、指名された選手が移籍先でもまたマイナー暮らしにならないよう、メジャー登録が絶対というルールがちゃんと敷かれています。
また、指名した選手を返却できるというルールも、選手の流動化を進める上で非常に大きな意味を持ちます。
言い方はちょっとアレですが、獲得する側は
「あいつウチのチームなら活躍できるかもしれないし一回獲ってみるか、ダメだったら返せばいいし」
と、比較的気軽に指名ができます。
この点は、日本ほど移籍を重苦しく受け止めないメジャーリーグらしさが溢れていると言えるでしょう。
NPBの現役ドラフトのルール
続いて現時点(10/17時点)で判明しているNPBの現役ドラフトに関するルールは以下の通りです。
各球団が任意で2名以上の選手リストを提出し、最低1人以上獲得、1人以上が他球団へ移籍する方式となる
これを踏まえて
リストアップ選手に関して↓
指名の流れに関して↓
リストアップ選手に関する補足
各球団からリストアップする選手の条件に関しては情報が錯綜しており、年俸の上限は5,000万円としている記事もあります。
「一軍最低年俸(1,500万円)未満」や「育成選手」がリストアップ対象外なのは、いわゆる“クズ交換会”にさせないためのルールと言えます。
使い物にならない選手をリストアップして厄介払いしようという球団が現れないとも言えないので、どうしてもこの手のルールは必要になってきます。
また「前年のドラフト会議で指名された新人選手」の項目は、アマチュア野球界との関係性を強く意識したルールと言えるでしょう。
ドラフトで指名しといて翌年すぐに現役ドラフトに出す、では高校や大学、その他アマチュアチームから大きな怒りを買うことになるでしょう。
指名の流れに関する補足
指名順はウェーバー制ではなく、
より指名したいと思う選手をリストアップした球団順
ということになります。
その理由も、先ほどのリストアップ選手の条件同様、現役ドラフトを形骸化させないためのルールでしょう。
自球団から”目玉”と言えるような選手をリストアップしておけば、どうしても獲得したい選手がいた場合ドラフトをかなり有利に進めることができます。
当然“目玉”となるような選手はそれなりの年俸をもらっているでしょうから、1億円や5,000万円など、最低年俸との「幅」も必要になります。
メジャーとの大きな違いは「その後」
現時点で判明しているNPBの現役ドラフトとMLBのルール5ドラフトを比較すると、最も大きな違いはドラフトの「その後」を見ているかどうかという点です。
ルール5ドラフトでは、指名された選手は必ずメジャーの試合に出場できる点や、ダメでも元の球団に戻すことができる点で、選手自身も球団もドラフト後に対してある程度の安心感を持つことができます。
しかし現状でのNPB現役ドラフトは、単に選手を球団同士で動かすことだけに主軸が置かれており、その後の保証などについては何も明文化されていません。
もちろんまだこれから細かい点を詰めていくのでしょうが、現役ドラフトの大きな意味は単に選手を動かすことではなく、選手に適切な活躍の場が与えられること、のはずです。
ドラフトの「その後」をどうするのか…、この点は早急に議論が必要と言えます。
予想されるリスク
ここからは現役ドラフトを行うことで予想されるリスクについて触れていきます。
リスク①使えない選手の”押し付け合い”になる
最も危惧するべきはこの点です。
いくら最低年俸のラインを設定しても、リストアップ選手の質で指名順が上位になるようにしても、現状のルールでは結局は不要な選手の押し付け合いになるリスクを秘めています。
獲得した側の球団にその選手をどう使うかの取り決めがないため、獲得はしたものの結局は2軍で飼い殺し、翌年戦力外通告…という形もあり得るわけです。
そもそもリストアップされる選手は選手自身の希望うんぬんは考慮されず、球団側が勝手に選ぶだけ。
そこに有力選手や将来有望な選手を入れること自体あまり現実味がなく、基本はやはり期待値の低い選手がリストアップされることになるでしょう。
これでは指名する側のテンションも全く上がりません。
現役ドラフトで他球団に移籍したものの、クビになるのが1年伸びただけ…そんな切ない結果になる選手が現れることは十分考えられます。
ちなみにこの点もメジャーリーグと比較すると、ルール5ドラフトでは「プロテクト枠に入っていないマイナー所属の選手」のほとんどが主な指名対象になります。
各球団2名ずつ(たったの22名)のうちから選ばなければいけない日本と違い、「プロテクト枠に入り切らなかったお宝選手」が潜んでいる可能性はグッと高いものになるのです。
リスク②トライアウト組への影響
現役ドラフトを行うことで、全球団が少なくとも1人、獲得する選手が増えることになります。(放出する選手も増えますが)
そうなると、トライアウトで生き残りやプロ入りを賭けた選手にも当然影響が出ます。
本当はコイツ獲りたかったけど、現役ドラフトでしょうがなく1人獲らされちゃったから見送りだなぁ…なんてケースは容易に想像できます。
リスク③リストアップされた選手のモチベーション
現役ドラフトにリストアップされる選手にはもちろん前もって通達はされるのでしょうが、ルール上は2人リストアップされたうちの1人は移籍しないというパターンがあります。
これはつまりその選手にとって
ほぼ戦力外通告と同等
の宣告を受けた上で、そのチームに残らないといけないことを意味します。
次のシーズンで目覚ましい活躍ができればいいですが、それができなかった場合、おそらくシーズン終了後に待っているのは本当の「戦力外通告」(もしくは2度目の現役ドラフトリストアップ)。
モチベーションを保てないのは間違いありません。
いっそのこと早々に戦力外にしてあげた方が、その後の人生を考えるとその人のためになるとも言えます。
現役ドラフト、メジャーとの大きな違いは「その後」にアリ!早急なルール整備を!
12月9日に初めて行われるプロ野球「現役ドラフト」。
メジャーで行われているルール5ドラフトとの違いや、その問題点・リスクについて掘り下げてきました。
メジャーとの大きな違いは、現役ドラフト後の保証があるか否かという「その後」にあるということがお分かりいただけたのではないでしょうか。
現状では様々なリスクも想定され、まだまだ多くの問題を抱えている現役ドラフト。
いきなり大成功となるのは難しいかもしれませんが、野球界の未来のため、早急なルール整備を望みたいところです。