作曲家で俳優としても活躍した小林亜星(こばやし・あせい)さんが5月30日、心不全のため都内の病院で死去していたことが分かりました。88歳でした。
小林亜星さんと言えば数々の有名曲を生み出し、まさに昭和から平成の音楽界を彩った天才作曲家と呼べる存在です。
この記事ではそんな小林亜星さんの音楽の原点、作曲にまつわるご自身の考えと、生前最後にリリースされたCDについても解説していこうと思います。
もくじ
音楽の原点
子供の頃から音楽は好きだったという小林亜星さん。
音楽の道に傾倒していくきっかけは何だったのでしょうか。
連れていかれた店で流れていたある曲
東京生まれの小林亜星さんは幼い頃、父親に連れられ新宿の飲み屋に行っていたそうです。
そこで流れていたのが二村定一さんが歌う『アラビヤの唄』。
小林亜星さんはこの曲が大好きだったそうです。
そしてまたこの店で働いていた女給さんがとてもいい匂いのする魅力的な方だったそう。
幼いながらも店内で流れるジャズレコードを聴いて大人の女性の色気に触れながら「俺は将来こういう世界へ行く」と思ったんだとか。
戦争で疎開
東京の杉並区に住んでいた小林亜星さんですが、戦争が激しくなり長野県に疎開することになります。
「成就寺というお寺にみんなで住んでいたんだけど、娯楽も何もなくて、夜になるとハーモニカでいろんな曲を吹きました。
レコードも作るような状況じゃなく、前から持っていたSP盤のレコードを手回しの蓄音機で聴きました。
同盟国ドイツのクラシックやイタリアのオペラは大丈夫だけど、アメリカの音楽はダメで、ジャズは防空壕の中で内緒で聴いていました」
と、当時の状況を振り返っています。
ジャズに原点あり
こうした発言からも、小林亜星さんの音楽の原点はジャズにありそうです。
ジャズと言えば即興演奏という、その場の空気感でメロディーを作って演奏するスタイルが特徴。
CMソング、アニメソング、歌謡曲、子供の歌…ありとあらゆるシーンにマッチする作品を生み出せたのは、型にハマらないジャズの音楽にインスパイアされたからと言えるかもしれません。
作曲について
父親の実家が病院だったこともあり慶應大学の医学部に進学した小林亜星さんですが、勉強そっちのけで学生バンド活動にのめり込みます。
その後一旦は就職するもすぐに辞め、やっぱり音楽しかない!と作曲家の服部正先生に師事しました。
いまでも5分あれば曲をつくれる
作曲家となってからのご活躍はもう言うまでもありません。最盛期は1日に3~4曲を作ったといいます。
「僕にとって、(曲やメロディーが)湧かないことのほうが不思議でね。いまも、作れと言われたら5分もあれば作れます」
これを語ったのが87歳のとき。
老いてなお、というよりも小林亜星さんの作曲センスはもはや神様からの授かり物なのかもしれません。
音楽をやめたいと思ったことは一度もない
ドラマやバラエティでも大活躍を見せまさに「マルチタレント」の先駆け的存在だった小林亜星さんでしたが、やはり音楽家としての仕事が天職だったようです。
「だってこれ(音楽)が一番好きなんだから。仕事とはあまり思わない。要するに、道楽だよね」
心の底から音楽を愛している人の言葉ではないでしょうか。
現代の音楽についても…
晩年、小林亜星さんはこれからの音楽について、まさにその道楽性が失われつつあることを危惧する発言を残しています。
「ネット時代になって、世界的な現象なんだけど、老若男女誰もが知るヒット曲はなくなりました。一人ひとりが自分の好きなものを見つけて没頭する。
でも、新しいメロディーも、もうちょっと出てきてもらいたいなと。CMを見ても、ありものの音楽を使っている。新しく作っている人にたまに会っても、自分で自分をアーティストと言っていたり、僕から見るとうぬぼれにしか聞こえないし、みんながお山の大将になって満足している。
アーティストなんてある意味、不良です。そんな偉いもんじゃないんだ。僕なんか不良の成れの果てですよ」
クリエイターを”アーティスト”と呼ぶことで、作品がどんどんマニアックな方向に行っている感は確かにあります。
芸術作品なんだから分かる人にだけ分かればそれでいいと…
ですがそれはある意味「逃げ」です。
大衆に、いや全国民に愛される曲をこれでもかと生み出した小林亜星さんの言葉だけに、これは実に重いものがあります。
最後のCD
小林亜星さんは2019年にキャリアの集大成「小んなうた 亞んなうた ~小林亜星 楽曲全集~」(日本コロムビア)をリリースしています。
それは歌謡曲編、コマーシャルソング編、アニメ・特撮主題歌編、こどものうた編のCD4枚組となっており、亜星さんの作品の多さに驚かされます。
収録曲ももちろん耳馴染みのある曲ばかり。曲の一覧は↓から。 https://tower.jp/article/feature_item/2019/06/05/0706
これだけの大衆音楽を生み出せる作曲家は、もう二度と現れないかもしれません。
まとめ
小林亜星さんの発言から、音楽の原点と作曲への考え、現代音楽についての見解などに迫ってきました。
見た目の風貌から、決してストイックな天才作曲家というイメージを感じさせなかった小林亜星さん。
しかしながらその作品の量、そして認知度の高さを見ると、それはまさに天才の仕事であったと感服させられるのです。
日本が誇る偉大な天才作曲家・小林亜星さん。ご冥福をお祈りいたします。