信号待ちのたびにエンジンが停止し、右折レーンで前に少しずつ詰めるときなど数m動いてはエンジン停止、また数m動いて停止・・・の繰り返し。
アイドリングストップ中はエアコンも全然効かずイライラ、車検のたびに「バッテリーが劣化してます」と言われ数万円の出費。
こんな機能いらない!と思っている方が大多数の「アイドリングストップ」。
購入時に外そうにも標準仕様になっていて装備するのが強制的だった機能ですが、近年このアイドリングストップ機構を備えないクルマが登場し、それが増えているといいます。
この記事では、アイドリングストップによるデメリットを解説しながら、そもそもなぜこんなにもその機構を持ったクルマが出回ったのかに迫ってみたいと思います。
もくじ
アイドリングストップ機能のデメリット
アイドリングという言葉には「サボっている」という意味も含みますが、クルマにとってもドライバーにとってもむしろ負担増なようで・・・
エンジン本体にかかる負担
アイドリングストップはエンジンの停止→始動を何度も何度も繰り返します。そしてエンジンを始動させるためには大きな電流が必要になります。
エンジン内部のパーツは、“停止している状態から動くとき”と“急に動くスピードを変化させたとき(急な加速や減速)”に最も負担がかかります。
アイドリングストップはこれを短い周期で激しく繰り返すのです。エンジンに負担がないわけがありません。
「エアコンの電力消費は電源を入れたときが一番大きい」という話を聞いたことがある方も多いと思います。それと同じことをクルマで起こしているのです。
バッテリーが「専用品」
そんな風にエンジンに対して大量の電流を一気に何度も送り込まなければいけないアイドリングストップ車には、当然のごとく一般的なバッテリーを用いることができません。
短時間での大電流の出し入れに対応した高性能な専用品が必要になるのです。
この専用バッテリーの価格は3万円~4万円と言われており、これが車検のたびに負担としてドライバーにのしかかります。
燃費が向上してガソリン代が浮いた、と喜んだのも束の間、とてもその浮いたガソリン代では賄いきれない額のバッテリー代の請求がドカンと来ることになります。
また、単純にこの機構を装備しているクルマは車両本体の価格も高くなり、家計への負担も非常に大きいものがあります。
エンジンオイルにも厳しい
エンジンの始動時に噴射される燃料や燃えカスである「カーボンスラッジ」と呼ばれる不純物は、エンジンオイルの劣化を加速させます。
エンジンの始動頻度が多いということはその都度、そのカーボンスラッジが発生することになり、エンジン内パーツの負担から生じる部品の磨耗粉と合わせてオイルの潤滑性能を著しく低下させていきます。
その他の負担
アイドリング停止中のクルマへの負担はまだまだあります。停車状態を保持するだけでもクルマには負担が生じているのです。
- エアコンのコンプレッサー、発電機の駆動させる
- オイルポンプで油圧を作り各制御を機能させる
- ブレーキのサーボに吸気系で発生する負圧を利用させる
エンジンが停止しているのでこうした機能の維持をするためにクルマには必要以上の負荷がかかっていることになります。
なぜアイドリングストップ車は増えた?
ではなぜこんなにもデメリットの多いアイドリングストップ車が増えたのでしょうか。
アイドリングストップ運動
日本車におけるアイドリングストップ普及の火付け役となったのは、2009年に登場した2代目マツダ/アクセラだと言われており、このクルマの登場以来、アイドリングストップはもの凄い勢いで普及していきました。
ちょうどこの頃、世間でも自動車関連団体などが「アイドリングストップ運動」なるものを推進していたことが、この急速な普及の後押しになりました。
大きな交差点の信号待ちなど、比較的停車時間が長い場合、エンジンを停止させましょう、といった呼びかけがなされていたのです。テレビCMなどが流れている地域もありました。
環境への配慮やエコカーに注目が集まりだした時期であったことは大きな原因のひとつでしょう。
見映えと聞こえの良さ
また各メーカーも、自社のクルマが環境に配慮しているということをアピールするため見映えの良いカタログを作り、聞こえの良い宣伝文句を探していたのです。
アイドリングストップで燃費が良いということをアピールすれば消費者もメリットを感じて購入する動機になり、メーカー側もCO2排出量を減らした地球に優しいクルマを開発しているということを謳えます。
消費者にとってもメーカーにとっても、分かりやすくて扱いやすいキーワードが「アイドリングストップ」だったのです。
企業別平均燃費基準
これは【CAFE】と呼ばれる自動車の燃費規制のことで、車種別ではなくメーカー全体で1年間の販売台数における各区分の平均燃費基準を算出し、規制をかける方式のことをいいます。
この基準をオーバーした場合、メーカーには罰金が課せられるという仕組みです。
米国やヨーロッパでもすでに導入されており、ものすごくかいつまんで言うと、各自動車メーカーは燃費のいいクルマを販売しないと罰金が課されますよ、という規制になります。
この規制が厄介なのは、どれだけ省燃費やエコに配慮したクルマを開発しても、基準は「販売台数」に対して設定されるため“売れなければ”意味がないということになってしまう点です。
100台クルマが売れても、省燃費のエコカーがそのうちの1台だけではダメで罰金となってしまうのです。
このため各メーカーは「多少ムリをしてでも」アイドリングストップを搭載したクルマを販売しなければならなくなっていたのです。
これからのアイドリングストップ
それでも冒頭に述べたとおり、アイドリングストップ機構を備えたクルマは減ってきています。
世界のトヨタは・・・
トヨタはすでに、最新車である新型ヤリスにアイドリングストップ機構を搭載していません。
これはトヨタの技術力で、アイドリングストップ機構を無理やり搭載しなくても燃費走行が可能なクルマを生み出したことで実現したというのが表向きの理由です。
実はアイドリングストップの有無で燃費の大差なし?
車種による違いはあれど、アイドリングストップの有無による燃費向上は走行距離ベースで5%程度と言われています。
しかも夏や冬はエアコン稼動が増えるため、アイドリングストップの回数は減少し燃費が向上する割合は減少します。
さらに消費者視点に立ってみれば、先述したバッテリーや車両価格の上昇で負担が増えることは明白です。
トヨタはこうした観点から「アイドリングストップ非装着の方が、総合的に見てユーザーの負担と環境負荷が少ないと判断した」という見方もあるのです。
まとめ
アイドリングストップのデメリットや、アイドリングストップがここまで広まった理由、そしてこれからの在り方についても解説してきました。
そもそも“環境への配慮”をメーカー都合の「燃費」だけで図ろうとしたことが問題ではないかと思います。
クルマは我々の生活になくてはならないものだけに、その機能や装備については慎重な議論、判断を求めたいところです。