信じられないブームに
我々古参の競馬ファンの意に反し、空前絶後で超絶怒涛のヒットとなっている「ウマ娘」。
ほんとにゲームをやったことない競馬ファンからすると「ナリタタイシンのガチャは引くべき」とか「マチカネタンホイザのイベント報酬の評価」とか、信じられないワードがネット上を飛び交っていて、一体日本で何が起こっているのか目を疑う事態になっています。
ただ、ウマ娘がなければ絶対に一般的には知られることのなかった名馬たちが、こうして名前だけでも世に知られていくのは複雑ながらも嬉しい思いを隠しきれません。
競馬ファンとしてのウマ娘に対する筆者の複雑な思いは↓にて
WEB限定! 「『ウマ娘』を競馬ファンのソシャゲ嫌いが語る」のはなし。2021.04.12
察するに既に相当な数の競走馬が女体化されキャラクターとして登場しているんですよね。しかもそのキャラクターごとにちゃんと史実に沿ったプロフィールまで用意してあるとのこと。
これは聞き捨てならぬ!
果たして本当に実在の名馬たちに対し畏敬の念を込めてプロフィール設定をしているのか、競馬ファンの端くれとして調査しないわけには参らぬ!
ということで生まれて初めて「ウマ娘」の公式サイトというものを訪れました。
そこにはしっかりと、そして確かに過去の超名馬たちの名前と、その上に何の因果か分かりませんが美少女キャラの画像が・・・クソっ、改めて現実を突きつけられると怒りが・・・
しかしここはぐっと堪えて、とりあえず一番左上にある「スペシャルウィーク」のプロフィールと、実際の競走馬スペシャルウィークの競走馬人生を比較してみることにしましょう。
「スペシャルウィーク」の比較スタート
ウマ娘「スペシャルウィーク」のプロフィールはこんな内容でした。
北海道生まれの、素直で明るい頑張り屋。生後すぐに実母を亡くし、その親友である人間の女性の元に預けられた。『日本一のウマ娘になる』は2人の母に誓った約束。憧れたりくじけたりを繰り返しながら、持ち前のガッツで夢に向かってひた走る。
なるほど。
では一つ一つ精査していきましょうか。
まず「北海道生まれの」から始まりますが、この設定いるんでしょうか?サラブレッドというのは9割がた北海道生まれです。
ほんの一部が青森だったり千葉だったり九州だったりしますが、やはり北海道の広大な自然の中でないと伸び伸び成長できないのか、活躍馬のほとんどは北海道生まれです。
キャラクターには“田舎から出てきて頑張る”みたいなキャラ設定が必要だったのでしょうか。
続く「素直で明るい頑張り屋」の部分ですが、競走馬スペシャルウィークは血統の割りにおとなしい性格だったと言われます。
というのもこのスペシャルウィークの父親であるサンデーサイレンスという馬がとんでもないキ○ガイでして・・・ってこれは長くなるので割愛。
だから「素直」というのは当てはまります。「明るい」というのは難しいですね。馬の性格に「明るい暗い」があるのかどうか分かりません。
馬にもいわゆる“陽キャ”とか“陰キャ”みたいな区分けがあるとは思いませんが・・・。
「頑張り屋」というのはこの後の生い立ちにも関係してくるので後述することにします。
母の死
そこから「生後すぐに実母を亡くし」という急に重めの設定をブチ込んできていますがこれは事実です。
競走馬スペシャルウィークの母キャンペンガールは、スペシャルウィークを産んだ5日後にこの世を去っています。
スペシャルウィークがお腹にいる状態ですでに体調を崩していた母キャンペンガール。それでも命を賭けてスペシャルをこの世に送り出しました。
出産後、とても母としての役目をこなせない状態だったキャンペンガールに代わり、スペシャルウィークには乳母があてがわれました。
ところがこの乳母はやや気性が荒いこともあり、実の仔でないスペシャルウィークを遠ざけようとしたのです。
ウマ娘のプロフィールにある「2人の母」というのはこの乳母も含めての記述でしょうか。ただ関係上、この乳母にはあまり感謝すべき点は見当たりません。
乳母があまり頑張ってくれなかったこともあり、スペシャルウィークは人の手をかけて育てられました。
だからもしかしたら「頑張り屋」というのは自分を育ててくれた人間に対して恩返しをする馬という意味でつけられた設定かもしれません。
ただこの“人の手”を「親友である人間の女性」としたのはよく分かりません。何かアニメなどのための設定なのか・・・。実際のゲームやアニメの内容はまったく知らないので結び付けられませんが、懸命に世話をした牧場スタッフの中には男性だっていたはずです。
日本一になる
『日本一のウマ娘になる』は実際に達成しています。ウマ娘内の日本一が何なのか知りませんが、競馬における頂点は誰が何と言おうと「日本ダービー」です。
「競走馬はすべてダービー馬になるために生まれてくる」という格言があるぐらいです。
競走馬スペシャルウィークは天才・武豊を背にこの日本ダービーを制しました。
セイウンスカイやキングヘイロー(この辺りもウマ娘に登場してるみたいですね)といったライバルを退けた上に、5馬身差という圧勝劇で。
ちなみにこの年の日本ダービーが武豊にとってダービー初勝利。現時点でダービーを計5勝している名手も、このときまでは「武豊はダービーを勝てない」と言われていました。
スペシャルウィークはその呪縛を解き放ってくれた、いわばユタカにとって「初めての人(馬)」。―――って多分このゲームにはそういう要素を入れちゃダメなんですよね。
しかもガチの競馬ファンからは「ユタカの恋人はシャダイカグラだろ!」という激しいツッコミも入りそうです。
ややこしくなる前にプロフィール精査に戻りましょう。
憧れ×、くじける○、ガッツ・・・?
「憧れたりくじけたり」に関しては半分納得、半分意味不明。「憧れる」というのはおそらくゲーム内のご都合主義的キャラ設定かと。競走馬スペシャルウィークに「何かに憧れる」要素は見て取れません。
「くじけたり」に関しては宝塚記念でグラスワンダーにボコられ、そのショックで次のレースは格下相手に惨敗(7着)…からの次走・天皇賞で1着復活!という実際のストーリーがあるのでまあ納得です。
ただ「持ち前のガッツ」に関しては異議ありです。
先述の通り宝塚記念ではグラスワンダーに並ぶ間もなく突き放され、その次のレースでも強敵がいないのに惨敗。ガッツがあるならそんな風に負けは引きずらないでしょう。
そして引退レースの有馬記念でも、スペシャルウィークはグラスワンダーにハナ差で競り負けています。このハナ差でもし競り勝っていれば、グラスワンダーにリベンジを果たした根性馬、と言ってもよかったのかもしれませんが負けてますからね・・・。
スペシャルウィークを「ガッツのある馬」と認識している競馬ファンは多くないと思います。
主人公にふさわしいドラマ性
と、いうことでウマ娘スペシャルウィークのプロフィールを競走馬スペシャルウィークと照らし合わせて検証してみました。
いろいろ調べていて知ったんですが、ウマ娘内においてこのスペシャルウィークは主人公キャラなんですね。たしかにその生い立ちや存在感は主人公にふさわしいと思います。
ゲームのキャラ設定も史実に合わせて頑張っている方だと思いますが、スペシャルウィークのドラマ性に関しては語りやすいですからね。キャラ設定もしやすかったと思います。
ここに書けなかった年度代表馬問題や最良産駒ブエナビスタが牡馬だったら・・・のif、生まれ故郷である日高大洋牧場の火災など、語るべき点が山ほどある馬なのです。
そうした背景もあって未だに本当にファンの多い馬なので、こうしてメインキャラとして改めて注目を集めるのはやはり喜ばしいことだと思います。(N)