米大リーグ、ロイヤルズが18年7月にマイナー契約で合意した結城海斗投手(19)との契約を解除したと発表しました。
大坂・羽曳野出身の結城選手は18年7月8日に日本選手では史上最年少となる16歳2カ月でロイヤルズとマイナー契約、19年6月にはルーキーレベルのアリゾナリーグ・ロイヤルズに配属されましたが、公式戦での登板機会がないまま自由契約となってしまいました。
球団側は結城の登板がなかったことについて「19年は公式戦で投げられる状態ではなく、昨季は新型コロナウイルスの感染拡大によりシーズンが中止になったため」と説明しています。
こうなると気になるのはやはり結城選手の日本球界復帰。まだ19歳と若く、才能溢れる投手となれば自ずとドラフト候補として注目を集めることになりそうですが・・・
この記事では
- 結城選手はドラフトで指名される(権利を持っている)のか?
- あの悪名高い「田澤ルール」の影響はないのか?
といった疑問について解説していこうと思います。
もくじ
ドラフトで指名できる?
結城選手はあのダルビッシュ有と同じ峰塚中学の出身です。そこから高校への進学をすることなくロイヤルズと契約、海を渡りました。
そんな彼は今年のドラフトで指名される権利を有しているのでしょうか?
規約によると・・・
日本プロ野球選手会が公表している「新人選手選択会議(ドラフト会議)規約」によると、結城選手はドラフトの指名対象内です。
この規約の第1条に
新人選手とは、日本の中学校、高等学校、日本高等学校野球連盟加盟に関する規定で加盟が認められている学校、大学、全日本大学野球連盟の理事会において加盟が認められた団体に在学し、又は在学した経験を持ち、いまだいずれの日本の球団とも選手契約を締結したことのない選手をいう。
とあります。
これはつまりメジャー球団と契約を先に結んだことがあっても、日本の球団と契約したことがなければ「新人選手」と見なされることになります。
また野球連盟に加盟が認められている団体云々も、ダルビッシュ選手と同じ中学出身であることから、何の問題もないことが分かります。
必ずドラフト会議を経由する必要がある
同規約の第7条に“外国のプロ野球選手”に関する項目があります。それによると
新人選手であって、外国のプロフェッショナル野球組織に属する選手又は過去に属したことのある選手は、毎年、選択会議の7日前までに、いずれかの球団が選択の対象選手とする旨をコミッショナーに文書で通知し、コミッショナーがその選手が選択できる選手であることを、その都度全球団へ通告しなければ、いずれの球団もその選手を選択することはできない。
となっています。
要約すると、ドラフトで指名は可能だけれども指名したい球団は予め指名することをコミッショナーに報告し、全球団がその選手を指名できる状態にしなければならないということになります。
裏でコッソリ個人的に契約するということができない規定になっているということです。結城選手に限らず、メジャーでプレーする若手の青田買いを防ぐためのルールが設けられています。
と、いうことで結城選手は条件さえ整えば今年のドラフトから指名対象となることができます。
田澤ルールの影響
2020年8月に撤廃された「田澤ルール」。
ところが”今は無きもの”として扱うのはまだ少々難しいようで・・・
「田澤ルール」とは
「田澤ルール」とは、日本プロ野球のドラフトを拒否して海外球団と契約した選手について、帰国後の3年間又は2年間、ドラフト会議で指名しないというものです。このルールが設定された背景はこうです。
2008年、社会人野球の強豪である新日本石油ENEOS(現在ENEOS)のエースとして都市対抗大会を優勝に導いた田澤選手は、その年のドラフトの超目玉となりましたが、ドラフト指名を拒否しレッドソックスと契約を結んだのです。
これに対しNPBは、ドラフトを拒否して国外プロ球団と契約をしたアマチュア選手に対し、日本球界復帰後、大卒・社会人出身の選手は2年、高卒選手は3年間、NPB球団は契約しないという12球団の申し合わせ事項を設定。
これが通称「田澤ルール」と呼ばれるものです。
ただの腹いせ
メジャーへのタレント流出を防ぐため、とNPBは体のいいことを言っていましたが、実際は自分達の存在をないがしろにされたことによる腹いせではないかと批判の的となりました。
日本球界の発展を願うなら、より高いレベルで活躍する日本人選手が現れることはむしろ歓迎すべきことです。
それなのに「日本のプロ野球界にお金を落とさない選択をした選手に対する嫌がらせ」のようなルールを設けたのは非常に後味の悪いものとなりました。
今も残る「田澤ルール」の呪縛
撤廃された「田澤ルール」ですが、今もまだ尾を引いている感があります。
実際、ルール設定の張本人となった田澤選手は、レッズを解雇された後、国内の独立リーグ・BC埼玉でプレーしていました。ルールは撤廃され、規約上はドラフトの指名対象となったことになります。
田澤選手は当時でまだ34歳。メジャーで長年経験を積んだベテランセットアッパーという投手なら、戦力としても後進の育成役としても欲しがる球団はあったはずです。
ところがルールも撤廃され、ドラフト候補として指名可能であった田澤選手を指名する球団は現れませんでした。
これは単純に「選手として価値がない」と判断されたのか、はたまた「空気的に指名できなかった」のか・・・真意は誰にも分かりませんが、“田澤ルールの呪縛”がまだ残っていることを感じさせるには十分な出来事だったのです。
結城選手に関しては
もちろんこれが結城選手にも当てはまるとは言えません。
年齢はまるで違い、将来性という点では結城選手はまだまだ期待のホープと言えます。
そして何より可能性に溢れる選手がこのような「同調圧力」とも言うべき雰囲気に潰されてしまうのはあまりにももったいない。
日本球界のためにも、「田澤ルール」からの脱却を果たすためにも、結城選手に明るい話題が届くことを祈りたいと思います。
まとめ
結城海斗選手のドラフト指名、そして田澤ルールの影響について解説してきました。
旧態依然の日本のプロ野球界。若くして海を渡り、自身の可能性を試したいと思う若者たちの挑戦意欲を削ぐようなことは絶対にしてほしくありません。
そしてできるなら、その挑戦を後押しし、失敗しても受け皿として温かく迎え入れてあげるぐらいの度量を持ってほしいと思うのです。
9.24追記 引退発表、現在は会社員として活躍中
9月24日、結城海斗選手の現役引退が発表されました。
6月に自由契約になったあと、痛めていた右ひじの故障を理由に現役を引退。現在は会社員として活躍中とのこと。
ネット上には驚きとその引退を惜しむ声で溢れています。
本人のコメントは今のところ確認できませんが、関係者によると
「(自由契約の前は)投げても力が入らず(球速が)120キロ前後ぐらい。本人も自信をなくしていた。やれることは可能な限りやった」
スポーツ報知
と話しています。
ケガの影響は相当大きかったのではないかと推察されます。引退の理由が「田澤ルール」によるものではなさそうなのがせめてもの救いでしょうか…。
上記の通り、ドラフトでの指名、NPBでの活躍の芽も残っていただけに、本当に惜しい限りです。
それでも、彼の挑戦は素晴らしいものであり立派なチャレンジ精神だったと思います。その経験を活かして、第二の人生でも大活躍を期待したいと思います。
いずれにしても10代選手のメジャー挑戦や、NPBを経由しない渡米については今後も議論の対象になりそうです。