体操男子・白井健三が16日、日体大・健志台キャンパスで会見を開き、現役引退を発表しました。
白井選手と言えば2016年リオ五輪団体金メダル獲得をはじめ、数々の実績を残した超一流選手。
他を圧倒するひねり技を武器に、床運動、跳馬で自らの名が付く技を計6つも残しています。「ひねり王子」の愛称で、10代から日本代表でチームをけん引してきました。
しかし白井選手はまだ24歳。
世間からは「現役引退には少々早すぎる」という声も上がっています。
この記事では、そんな彼の引退理由として囁かれる怪我やルール改正について掘り下げてみたいと思います。
度重なる怪我
白井選手は近年、怪我に悩まされ続けていました。
2019年に右足首負傷
2019年2月、練習中に右足首を痛めて、予定していた大会を欠場。しかもその2週間後に再び同じ部位を痛めてしまっていたのです。
ここで白井選手は治療に専念せず、その後に控える全日本選手権への出場を強行しています。
肩を脱臼
さらに白井選手には不運が襲いかかります。右足首の怪我も癒えぬ2019年8月、今度は左肩を亜脱臼してしまうのです。
これもそれまでの練習不足をカバーするために強化合宿中に無理をしたためと言われています。
明らかな不調に・・・
短い期間に2度もの怪我を負った白井選手のリズムは完全に狂いました。
2020年は本来オリンピックの年でしたが、本人も「(今年が五輪なら)代表は無理だった」と話すほど調子は下降。
1年延期となったことで僅かながら光明は見えましたが、2021年4月には持病の腰痛が悪化、その1ヶ月後にはまたしても足首を痛め万事休す。
五輪代表を逃し、現役生活にピリオドを打つ決意をしました。
これだけの度重なる怪我。いくら超一流アスリートのメンタルを持ってしても、耐えられなかったとしても不思議ではありません。
体操のルール改正
体操の国際連盟はリオ五輪後、採点について厳格化を推し進めました。
白井選手の引退決断にはこの体操競技のルール改正が大きく影響しているのではないかと言われています。
評価基準の変更
特に白井選手に影響があったと言われているのは、技の出来栄えを評価するEスコアという部分。
つま先まで伸びているか、着地の際にしっかりした準備姿勢を取れているか、足が並行に降りているかなど、ルールの基本に忠実な演技を評価する方針がとられるようになったのです。
分かりやすく言うと、難しい演技よりも基本に沿った美しい演技を優先するという基準に変わったのです。
シライ対策
この変更は「白井健三対策」ではないかと言われています。
例えば床運動なら、白井選手のように以前では想像できない回転数で演技を成立させる選手が出現したことによる変更ではないかということです。
それまではより難度の高い技を仕掛ければ多少の乱れは目をつぶられる状況にあったのが、これが許されなくなり、難しい技を仕掛けてもしっかりと基本に忠実でなければそれは逆に減点の対象となるのです。
白井選手は先述の通り、「シライ」と自身の名前がつく技を持っています。もちろんそれは超高難度の技であり、他の選手は演じにくいことになります。
基準変更は競技自体が白井選手の独壇場にならないための措置と言っても過言ではないのです。
白井選手も不満爆発
この変更に対し、白井選手本人も2019年春に行われた世界選手権選考会の全日本選手権で最下位30位となった後に怒りをぶちまけています。
「うまくいったところでEスコアが出なかった心残りが大きい。意味がわからないですね、床があの点になる意味が。自分で分かってないですし、いろんな先生方にもっと話を聞かないと。体操人生で一番着地が止まった床だと思ったんですよ。だけど(Eスコアが)8・2しかでない。何なのかを知らないと。いまは何を直したいかが分からないので。止めろと言われたから止めたのに、同じ点しかでないという、そういう疑問が残っている中で演技したくないので、『引くなら引けよ』と思います」。
自身が死に物狂いで生み出し、一度は世界の頂点を極めた技を急に「ダメ」と言われたら・・・
闘う気持ちが削がれてしまうのも仕方ないと言えます。
まとめ
白井健三さんの引退について、その理由や原因を掘り下げてきました。
そこには「怪我」というアスリートにはつきものである致し方ない理由と、いきなりの「ルール改正」という到底納得のいかない理由と、複雑なものがあるのではないでしょうか。
今後は指導者の道を歩む白井健三さん。
卓越したセンスを持った選手だっただけに、多くの後輩にその技術を伝えていってほしいと思います。