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あした使えるはなしのたね
2019年発行

紅白歌合戦」のはなし。2019.11.21.thu

あぁ、もうそんな時期かと毎年感じさせられるのは、紅白歌合戦の出場歌手が発表されたときです。

何とな~くつけているテレビで知ることが多いのですが、これ、冷静に考えたらすごいことです。

すべてのテレビ局が、自分の局以外の番組情報をこれほどまでに大きく報じる歌番組、いやテレビ番組なんて後にも先にも紅白ぐらいのもんでしょう。

普通は「ウチの局は大晦日こんな番組やりまっせ!こんなタレント出まっせ!こんな企画やりまっせ!絶対見てくれよな!」でしょう。

それが紅白だけは、他局の番組であるにもかかわらず1ヵ月以上も前から誰々が落選しただの誰々が初出場だのとやるわけです。

ある種、異様な光景です。言わばライバル会社の商品を、お金をかけて宣伝しているようなものですから。

視聴率低迷などでその存在意義が問われている紅白歌合戦ですが、その威光はまだまだ健在です。

で、落選や初出場組と並んで議論の対象となるのが、毎回出てくる「出場辞退組」。

主な有名アーティストの辞退理由を並べてみると・・・

『体調が優れない』―ZARD  『海外でレコーディング』―久保田利伸、ミスチル  『年末年始は仕事したくない』―B’z  『興味ない』―大黒摩季、スピッツ  『トリなら出るよ』―松山千春  『おせち料理を作ってます』―松任谷由実  『恥ずかしい』―井上陽水  『施設の子供達と約束があります』―ピンクレディー

いやぁ、こうして並べてみてもピンクレディーの理由は異彩を放っていますね。

「タイガーマスクか!」と言いたくなります。

みんなそれらしい理由か、お茶を濁すような回答で煙に巻いている中、他の予定を優先します、というまるで紅白を下に見ているような理由です。

事実、ピンクレディーの人気はこの紅白出場辞退をきっかけに低迷の一途を辿ることになります。

当時の音楽業界で紅白を辞退するなんてあり得ない話。

週刊誌には「調子に乗ったピンクレディーが紅白に喧嘩を売った!」などと書かれたりしました。

(週刊誌は今も昔も同じようなことやってんなぁ・・・)もちろんこれはピンクレディー2人の意思ではなく事務所の戦略。

当時の事務所社長は後に「NHKの勝手な意向で一方的に出場・不出場が決められ、歌手が一喜一憂するのはおかしい。紅白病にかからせたくなかった」と語っています。

何が何でも紅白に出なければいけない!という固定観念は、心身に大きなストレスだったでしょう。

目標を達成したまではいいが、いつしかそれが義務になり、病のように心や体を蝕んでいく・・・恐ろしい話です。

こうしなければいけない、こうでなければいけない、という固定観念―――問題があると言われる日本人の働き方に通じるものがあると思います。

悲喜こもごもの紅白歌合戦。

私が大好きなX JAPANは2016年に「白」組で出場しながら「紅」という曲を歌うという、どっちやねん!

なパフォーマンスを披露したりしています。これは日本もジェンダーレス社会を迎えたということを、我らがX JAPANが高らかに宣言したのだと思っています!

ピンクレディーの時代とは異なり、紅白を辞退する歌手がいることも珍しいことではなくなりました。

少しずつ、日本人の意識とともに変わっていく紅白歌合戦はきっと、日本の縮図なのです。(N)