見たい、聞きたい、話したい…
ここにはそれがある。
あした使えるはなしのたね
2020年発行

「神聖」のはなし。2020/11/19thu

アメリカの大統領選のたびに羨ましく思います。

あんなに全国的に一つの関心事を共有できる機会なんて、日本にはない。アメリカ人にとって大統領というのは「スーパースター」なのでしょう。

日本人だって、スポーツの世界などで国を代表するようなスーパースターの活躍にはさすがに興味を示します。

ただそれが政治の世界には全くと言っていいほど存在しない、そういうことだと思います。

スーパースターというのは興味を惹きつけるには最高の存在です。なぜなら「同じ人間」だという認識を持てるからです。

人間は人間がやることに興味を持つ、という内容を以前書いたことがありますが「自分達の投票で選んだ我らの代表」に興味を持つ人が多いのは当たり前です。

未だに学生時代の学級委員や生徒会長の顔や名前を覚えている人は多いでしょう。それは自分達が選んだ自分達の代表だからです。

ところが逆に、立場があまりにも違い過ぎる存在―――「神聖」な存在になるとそうはいきません。

例えばイギリスの王や女王、北朝鮮の金正恩、イランの最高指導者ハメネイ師、ローマ法王、などです。こうした神聖な存在が政治の実権を握るとどうなるか・・・上記でいくと北朝鮮やイランです。

はい、お察しの通りロクなことがありません。理由は簡単です。誰も意見できないからです。

何か明らかにおかしな部分があっても誰も指摘できない。失敗しても責任を取らせることができない。

したがってその責任は部下が取ることになります。しかも更迭や処刑といった極端な方法で。

そうやって恐怖で縛り付けるのでますます意見する者は居なくなり、組織はおかしくなっていくのです。

日本も同じ過ちを犯したことがありました。明治~敗戦まで、日本のトップは天皇でした。まさに「神聖」な存在です。

天皇は江戸時代まで政治とは無縁の世界にいました。そんな存在を明治政府はいきなりトップに据えたのです。

当然ながら何か問題があっても誰もその地位を脅かすことはできず、次第におかしくなっていきます。2.26事件など動乱が増え、そのまま戦争に突入。

誰も責任を取れる人間が居ない中、支離滅裂な統治体制で弱体化した日本は、結局アメリカにボコボコにされることになったのです。

アメリカの大統領選は実に理想的です。

今回は不正投票疑惑などシステム面の問題が顕在化していますが、これもマンネリ化を防ぐための戦略、話題づくりなのではないかと思ったりもします。

それぐらい、国のトップを決めることには国民の関心を集める必要があり、自分達の意思でダメなトップは引きずり下ろせる体制が理想です。

権限には責任が伴うべきだからです。責任を負わせられない、または負えない人間がトップにいる組織はいずれ瓦解します。

そしてそのトップが「我々の代表」と思えるスーパースターならばなお良い。

国民にそういうイメージを植えつけることに、アメリカは見事なまでに成功しています。

アメリカが世界のリーダーたる所以は、リーダーを決める仕組みそのものにあるのではないかと思うのです。(N)