見たい、聞きたい、話したい…
ここにはそれがある。
あした使えるはなしのたね
2017年発行

「家畜」のはなし。2017.4.13

「社畜」という俗語があります。

個人的に大嫌いな言葉です。

Googleで「社畜」を検索すると『会社に飼い慣らされて自分の意思と良心を放棄し奴隷と化したサラリーマン、OL』という風に出てきます。言葉の成り立ちとして「会社+家畜」から来ているのは一目瞭然です。

要は頑張って会社勤めをしている人を揶揄する言葉なのですが、私がサラリーマンで、それを馬鹿にされているから嫌いな言葉だというわけではありません。「そもそも家畜の意味を分かっていない」から腹が立つのであって、その必要性を知ったらむしろ「社畜上等!」なのです。

家畜というと思い浮かぶのは豚や牛、羊、ヤギ、馬にロバといった動物たち。地域によってはラクダやトナカイ、ちなみに最も古い家畜は犬です。

ではなぜ人間は動物を家畜化したのか?それは当然ながら「家畜がいると何かと便利」だからです。

その恩恵は様々で、食料の確保、輸送運搬、農耕といったイメージしやすいものだけではありません。意外な効果のまず一つは「細菌に対する免疫力の強化」です。

オーストリアの機関が行った調査で、農村地帯では都市部と比べてアレルギーを持つ人が少ないことが分かりました。さらにその追跡調査によると、農家の子供は農家以外の子供と比べて花粉症の割合が3分の1、喘息の割合が4分の1と極めて少ないことが分かったのです。

それは家畜の糞に含まれる「エンドトキシン」という成分が関係しています。詳しい解説は長くなるので省きますが、この「エンドトキシン」に接触する回数が多いと細胞性免疫が増加し、アレルギーになりにくい体質を獲得できるのです。

つまり家畜と共に暮らすことにより、人間は生物として強くなることができたのです。

そしてもう一つの効果は「軍事力」です。

家畜を作るにはまず野生動物を捕まえなければいけません。すると必要になるのが銃や剣などの武器、つまり製鉄技術が向上します。当然この技術は人間同士の戦いにも役に立ちます。人類の歴史上、なぜユーラシア人が世界をリードしてきたかというと、広大なユーラシア大陸には大型野生動物が多く、それらを狩る、家畜化するための技術が戦争に役に立ったからです。

どうですかお客さん!家畜を馬鹿にするなんて、何と愚かなことかお分かりいただけたのではないでしょうか。

家畜は人間と共存し、我々を強くしてくれる存在なのです。

最後に―――「家畜」を英訳すると「livestock(ライブストック)」です。「live」は生きる、「stock」は貯蔵・蓄積。これだけで十分に分かりますね、家畜が生きるために必要で尊い存在であるということが。

で、あるならば「社畜」である我々も、もちろん。(N)