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2021年発行

「人口論」のはなし。2021.07.05

中国も少子高齢化が止まりません。65歳以上人口が総人口に占める割合(高齢化率)が13.5%だったと国税調査の発表がありました。

国際基準は高齢化率14%超を高齢社会、21%超を超高齢社会と定めています。そのため中国は年内にも高齢社会に突入すると見られます。(ちなみに日本の高齢化率は28.7%で超ド級の高齢化社会です)

中国といえばかの有名な「一人っ子政策」ですが、これはすでに2016年に廃止。それどころか5月31日には産児制限を緩和し、夫婦1組につき3人まで子供をもうけることを認める方針を発表しています。

中国は人口を増やすのに必死になってきているのです。ところが、悪い面ばかりが取り沙汰される「少子高齢化」が実は“豊かさの象徴”だという見方もあります。そして実は少子高齢化よりも、アフリカを中心に起きている人口の爆発的な増加のほうがはるかに大問題なのです。

「人口論」とはイギリスの古典派経済学者T・R・マルサスの著書です。この中に“制限されなければ人口は幾何級数(きかきゅうすう)的にふえ、食料は算術級数的にしかふえず、人口は食糧増加の限界を超えて増加する傾向がある。ここから貧困と罪悪が必然的に発生する」とあります。何のこっちゃ分からないですね。

「幾何級数的に増える」とは、ある事物、事象が、常に前の場合の何倍かをかけた数に増えることを言います。対して「算術級数的に増える」とは、ある量が、一定期間に、一定量だけ増加していることを言います。例えばA君が毎年100円ずつお小遣いから貯めていく場合、これは「算術級数的」に増えていきます。毎年の増加の量は「貯金箱にすでにいくらあるか」に無関係で、一定です。

しかしA君がそのお小遣いの100円を7%の年利で銀行に預けたら?この場合、毎年口座に増える量は一定ではありません。「全体の累積量=口座に預けてある総額」が増加するにつれ、増える金額もどんどん増えていきます。これが「幾何級数的」に増えている状態です。

つまり人口が増えるスピードに、食糧生産は絶対に追いつかないよとマルサスは言っているのです。人類が必要とする生存飼料産出のための土地の生産力は有限だからです。どんなに米が豊作の年でも、田んぼの面積が変わらなければ生産量が倍になることはありません。

ところが4人家族の子どもが2人が、それぞれ2人ずつ子どもを産んだら一気に家族は8人。人の数は倍々ゲームで増えるのです。マルサスが人口論を発表したのは1798年。200年以上も前に、すでに警鐘は鳴らされていました。

少子高齢化による働き手の不足や年金問題は、機械の導入や社会制度の見直しで対処ができます。しかし「食い物がない!」という問題だけは、どう足掻いても解決できないのです。そして少子高齢化社会では人口が増えることがないので、飢餓や貧困の心配はありません。

生活の豊かさと少子高齢化は密接に結びついていると言えるでしょう。そしてその豊かさを維持するためには人口を増やしすぎてもいけない。世界屈指の先進国となった中国は、人口の調整に非常に難しい舵取りを迫られています。(N)